身近な草花
雑草なのかガーデニング用なのか、どちらか分からない草花をよく見かける。最近気になっているものに、芝生の草地の間で咲いている小さな白い花と、黄色い花がある。調べてみると、どうやらヒナギクとキンポウゲのようである。その名前は、英文学のテクストにしょっちゅう出てきて、シェイクスピアの戯曲中にも登場している。オフィーリアの花輪をイメージさせる花の名前である。実際には、意外と地味で、タンポポに混ざって咲いていたりする。
5月中旬になって、少し背丈のある草に繊細な白い花が咲くようになった。園芸種のレースフラワーに似ているが、手入れされていない空き地に群生しているのをよく見かけるので、雑草なのではとも思う。名前はカウパセリ(Cow parsley)という。そういえば、公園の片隅にもよく群生している。
草花ではないが、この辺りで柵の代わりに庭木として植えられているサンザシが花盛りである。「赤毛のアン」のアンが好きだったというサンザシは、カナダのプリンスエドワード島の植物であった。ロンドンのサンザシと似ているのかもしれない。
ロックダウン緩和の日
5月17日、月曜日。今日からロックダウンの緩和が進み、店内での飲食が可能になったので、街の様子を見に出かけようと思う。ここのところずっと雨が続いていたが、今日は雨が止んだので、混雑していそうなカムデンロック界隈に午後から行ってみた。街は大賑わいかと思ったが、平日の午後のためかそれほど混んでいない。パブは午後4時から開店なので、まだ閉まっている。カフェでは、店内より外のテラス席に座っている人の方が多いようである。
晴れていたはずが、突然、豪雨になった。ロンドンにはめずらしく、大変などしゃ降りである。カムデンロック・タバーンという店が開いていたので急いで飛び込んだ。広い店内で人も少ない。雨宿りをしながらカムデン・ペールエールを飲んだ。時々、常連さんと思しき人が入ってきて、店員さんと再会を喜んでいた。
一時間すると雨はすっかり止んで、また晴天になった。帰り道でコマドリ(ロビン)の写真を撮ることに成功。最近、コマドリを見かけることが多くなった。カラ属は体が小さく、更に高い木の梢にいるのに比べて、コマドリは梢の下に降りてきて地面の方までやって来るようである。胸の赤茶色が目立つ小鳥である。その後、夕方からまた豪雨になった。雷の音も響いた。
5月の花
5月12日、水曜日。午後から日が差してきた。底冷えするような寒さは無くなり、ダウンジャケットを着なくても良い気候になった。とはいえ体感温度としては、寒暖の差が大きい。出かける時は寒いかなと思っても、日なたに出ると暑かったりする。一日の温度変化が大きいため、季節の変化が分かりにくい。その一方で、植物の方は順調に変化している。
とうとう藤の花が満開の季節になった。
ロンドンでは藤も人気で、壁面に藤をつたわせている建物や住宅を時々見かける。カムデン駅の近くで、カムデンらしいワイルドな建物に藤が這わせられていたのを見た。ガーデニングと落書きが共存している世界である。
毎日歩いている通りの街路樹にも花が咲いた。見れば、マロニエの花である。街路樹が大きすぎてかえって気が付かなったが、この道はマロニエ通りであった。赤い花の木と白い花が木が並んでいる。
レスタースクエアから中華街へ
5月に入ってからも肌寒く雨模様の日が続いていた。5月1日から建物のセントラルヒーティングが止められたので、部屋の中も冷えるようになった。窓から外を見ると雹が降っていた日もあった。
5月9日、日曜日。前日までの雨はやんで気温は20度まで上がり、久しぶりに暖かい日になった。鳥スープの粉末を買いに、中華街まで出かけることにした。外に出ると、サマードレス姿の人をちらほら見かける。季節は夏に向かっているようである。
ところで、日本のスーパーマーケットには必ず置いてある鳥ガラスープの素の粉末が、近所のスーパーにはない。骨付き鳥モモ肉は激安で買えるしキチンコンソメもあるものの、鳥ガラスープはないのである。日本食を作るために必要なものが一通りそろう日本食材店にもない。一方、近所のスーパーマーケットにはフォーやパタッタイを作るための米粉の麺はあり、日本食の材料よりかなり安く手に入る。そのため、麺を買ったものの、料理する場合、味付けにはナンプラーだけでなく鳥ガラスープが欲しいところである。中国料理の食材を売る店に行けば手に入るらしい。
ロンドンの中華街は、地下鉄ノーザンライン線のレスタースクエア駅の近くにある。レスタースクエア駅を出た所に、レスタースクエアという小さな公園がある。公園の周囲にはメアリー・ポピンズやハリーポッターなど、物語の登場人物たちの彫像が置かれている。
そして、公園の中心にはシェイクスピア像がそびえている。
公園のベンチの所々には、あたかも座っているように彫像が設置されている。向こうのベンチに熊のパティントンが座っているのを見つけたが、赤ちゃんを連れたお父さんが子どもたちをパディントンの横に座らせ写真撮影をしていたので、パディントンの写真を撮るのはまたの機会にした。
中華街に入ると、通りには沢山のテーブルが出ていた。セイロとティーポットが並んでいる。飲茶が出来るらしい。お昼時だったので、かなりの混雑ぶりで長い列もできている。アジア人だけではなく多様なエスニシティの人々が行列を作り、ロンドンらしい風景である。「SeeWoo」というスーパーマットがすぐに見つかった。店内はかなり広く、中国料理だけではなく韓国料理や日本料理の材料が揃えられている。鳥ガラスープの素もある。大きな缶に「鶏紛」というラベルがプリントされている。クノールと味の素の二種類があったので、味の素の方を購入した。ビン入りオイスターソースも入手。そういえば、オイスターソースも近所のスーパーマーケットには置かれていなかった。
グラッファロー
5月2日、日曜日。晴れのち時々雨。ロンドンには書店が多い。「DAUNT BOOK SHOP」と「Waterstones」の二大書店はこの辺りを含めて各所に店舗がある。どちらも店内でオリジナルトートバッグを購入できて楽しい。店内の天井や壁は重厚感ある木調で統一されていて落ちつた書斎を思わせる雰囲気である。そして、どの店舗にも子供のコーナーが作られていて、子供がゆっくり本を選べるようにレイアウトされている。
書店に並ぶ絵本はペイパーバックと称する柔らかい紙の表紙の本が主流である。絵本のコーナーを見ると、どの書店にも「グラッファロー」が置いてある。Julia DonaldsonとAxel Schefflerによる「The GRUFFALO」という絵本である。絵本だけでなく、ぬいぐるみやカードもある。
物語は、小さなねずみが森の中を進んでいくところから始まる。ねずみは、森の中できつね、フクロウ、ヘビといった怖い生き物に出会うが、彼らに架空の巨大な怪物グラッファローの話を聞かせ、彼らを怖がらせて森の中を意気揚々と進んで行く。ところが、ねずみの前に本物のグラッファローが現れてしまう。ねずみは、グラッファローを引き連れて、今後は逆にヘビ、フクロウ、キツネを訪ね、彼等がねずみにおびえている様子をグラッファローに見せる。ねずみが森の中で一番恐ろしい生き物だと思ったグラッファローは、ねずみを恐れて逃げ出していくという物語である。
絵本なので、ねずみやグラッファローといったキャラクターが魅力的な姿で絵に描かれており、音読されることを意識して文のすべてが韻を踏んでいる。「GRUFFALO」という音も動物のガルガルとしたうなり声を思わせる。音としても楽しめる作品である。
そしてなにより、空想の領域と現実の世界との関係をめぐる物語であるということが興味深い。空想は幻想の領域におさまらずに、現実の世界にやってきてしまう。そして、それは少し怖いものであるけれど、完全に自分を飲み込んでしまうものでもない。この関係性の絶妙な距離感を、グラッファローの物語を読むたびに体験できる。
東京では見かけない植物
5月1日土曜日、曇り。時々太陽が出るが、時々雨がざっと降る。お天気雨である。
東京では見ない植物を時々見かける。スマートフォンで撮影して、グーグルレンズのアプリで検索すると、それと思われる名前の候補が出て来る。
まずは樹木から。4月初旬はすっかり葉が落ちていた中庭の木に黄色い小さな花が咲き、一緒に赤い葉も出てきた。今やどんどん葉が茂って、錆びたえんじ色の葉をつけた木になった。「ノルウェー楓」というらしい。
次に、赤い花が咲いている街路樹。ブーゲンビリアの花の色のような濃いピンク色が目立つ。葉よりも花の方が大きいので、遠くからだと赤い葉の木に見える。よく見かける樹木ではあるが名前は分からない。グーグルの情報では「リンゴ属」とだけ出てくる。
花に接近すると、思いのほか造形が美しい。
ロンドンでは青い花も人気である。ちょっとした片隅で、シラーやわすれな草の花が咲いているのをよく見かける。とあるお宅の前庭では青紫色の小さな花をつけた見事な灌木が茂っていた。セアノサスという。園芸品種で人気があるらしいが、高温多湿の東京では大きく育てるのは難しいようである。
最後に、地面で見かける植物。園芸種なのか雑草なのか、よく分からない風情である。前庭で生い茂っている光景も見かける一方で、手入れされていない場所でタンポポと一緒に生えている場合もある。今、濃い水色の五角形の花を咲かせている。ムラサキ科の植物で、ペンタグロティス・センパーヴィレンス(Pentaglottis sempervirens)という名前だそう。日本には上陸していない様子である。
ロンドンの植物の季節は進んで行く。
ライラック
4月30日、金曜日。晴れているが寒い。日中の日なたの最高気温が13度程度である。天気予報によると、この春は記録的な寒さが続いているという。寒さに関らず、植物の季節は進み、八重桜が散って道にはピンクの花びらが積もっている。藤の花のつぼみがかなり大きくなったので、もう少ししたら藤の季節になるようだ。
今はライラックが満開になった。公園だけではなく、シンボルツリーとしてライラックが植えられている前庭もよく見かける。色はピンクから赤紫が多いが、時々白い花もある。大きな木でも咲く花は繊細でロマンティックである。東京では湿度と高温のためにライラックは育ちにくいが、ロンドンの涼しい気候には適している様子である。
近所の前庭に植えられているハナカイドウも、今、満開である。ハナカイドウは植木として東京では良く見かけるが、この辺りでは珍しい。ロンドンの樹木らしく、大木に育っている。