ロンドン消息 2021

ロンドンで1年間暮らします

グラッファロー

5月2日、日曜日。晴れのち時々雨。ロンドンには書店が多い。「DAUNT BOOK SHOP」と「Waterstones」の二大書店はこの辺りを含めて各所に店舗がある。どちらも店内でオリジナルトートバッグを購入できて楽しい。店内の天井や壁は重厚感ある木調で統一されていて落ちつた書斎を思わせる雰囲気である。そして、どの店舗にも子供のコーナーが作られていて、子供がゆっくり本を選べるようにレイアウトされている。

 

書店に並ぶ絵本はペイパーバックと称する柔らかい紙の表紙の本が主流である。絵本のコーナーを見ると、どの書店にも「グラッファロー」が置いてある。Julia DonaldsonとAxel Schefflerによる「The GRUFFALO」という絵本である。絵本だけでなく、ぬいぐるみやカードもある。

 

物語は、小さなねずみが森の中を進んでいくところから始まる。ねずみは、森の中できつね、フクロウ、ヘビといった怖い生き物に出会うが、彼らに架空の巨大な怪物グラッファローの話を聞かせ、彼らを怖がらせて森の中を意気揚々と進んで行く。ところが、ねずみの前に本物のグラッファローが現れてしまう。ねずみは、グラッファローを引き連れて、今後は逆にヘビ、フクロウ、キツネを訪ね、彼等がねずみにおびえている様子をグラッファローに見せる。ねずみが森の中で一番恐ろしい生き物だと思ったグラッファローは、ねずみを恐れて逃げ出していくという物語である。

 

絵本なので、ねずみやグラッファローといったキャラクターが魅力的な姿で絵に描かれており、音読されることを意識して文のすべてが韻を踏んでいる。「GRUFFALO」という音も動物のガルガルとしたうなり声を思わせる。音としても楽しめる作品である。

 

そしてなにより、空想の領域と現実の世界との関係をめぐる物語であるということが興味深い。空想は幻想の領域におさまらずに、現実の世界にやってきてしまう。そして、それは少し怖いものであるけれど、完全に自分を飲み込んでしまうものでもない。この関係性の絶妙な距離感を、グラッファローの物語を読むたびに体験できる。