ロンドン消息 2021

ロンドンで1年間暮らします

番外篇 入国お笑い騒動記

日本では日常的に英語を話す機会が全くない生活をしている。羽田からJALに乗っても、そこはまだ「日本」である。そして12時間後、飛行機を降りるといきなり英語の世界となる。しかし体は日本語使用モードのままである。ジェットラグは、体内時間の混乱のみならず言語中枢の混乱ももたらす。この混乱状態のさなかに入国審査に突入する。

 

 入国審査官は穏やかだった。がらがらの空港では日本のパスポートの所持者に「Japan? OK OK~」のようなぬるま湯的温かさが醸し出されていた。旅行者が少ないので空港の雰囲気に余裕が感じられる。ぬるま湯感にリラックスしたせいか、日本語使用モードのままで入国審査官の言葉の内容がすっきりと理解できて一安心。「How long have you stay in London?」という質問も余裕たっぷりに聞き取れる。とっさに口から出た返事は「one hour」。入国審査官が一瞬固まった模様。

 

「来たばっかりでもう帰るんかい!」と突っ込みを入れられはしなかったが、言ったそばから本人は大変動揺。「hour」と「year」は日本語の世界からすると口の形が似ていると思う、息の出し方の間違い?などなど焦りつつも、とりあえずマスク越しの最大限の笑顔で「あ~まちがった(笑)  one year!」と取り繕って審査終了。審査官は親切に「パスポートにスタンプが欲しいんじゃない?」と、スタンプのあるブースに案内してくれた。

 

ところが、ここからが実質的に本審査となってしまった。GOV.UKに提出した「passenger locator form」のPDFだけではなく、どうやら自己隔離期間中のPCR検査代金の領収書の提示が求められたようだった。しかし、すっかり終わってスタンプだけを押してもらえるとばかり思っていたところに予想を超えた展開となって大混乱。「なんだなんだ~」と焦るにつれて英語が聞き取れなくなって頭の中がぐちゃぐちゃに。「マスクを取ってしゃべって!」と入国審査官に言われるが、〈マスクなしの会話厳禁〉が染みついていて気付けばマスクを着けてしまう。その後、審査官の忍耐力と努力に助けられてなんとか体制を立て直していると、通りかかった別の審査官がパスポートに2020年と21年の二回分のビザのステッカーが貼り付けられているのを見つけて気になったらしく、横から質問してきた。「なんで去年来なかったの?」。去年の3月末に、在英日本大使館のウェブサイトに「英国は厳しいロックダウン中で、トランクを持っている人間が道を歩く雰囲気ではないから来ないように」と書いてあったぞと言いたいが、しかしここは「ご冗談~」と言うところなのか。英国の去年のあの惨劇は忘れてしまったのか!答えにつまったのは、英語力の問題だけではなかったと思いたい。

 

もし、これから入国審査を受ける方がいらしたら、出国前48時間以内提出の「passenger locator form」PDFデータと、自己隔離期間中のPCR検査代金の領収書のPDFデータのプリントアウトを持っていくと便利かもしれない。これのデータはスマートフォン上で見せれば良いのではあるが、出入国の際に何度も提示を求められ、特に自己隔離期間中のPCR検査の予約状況については入念なチェックが行われる。そのため、あらかじめプリントアウトした紙を出発前のPCR検査の陰性証明書と一緒にして、出入国の際に一度にすべて見せられるようにすると、じたばたすることなく審査の時短になるのではと思った次第である。