ロンドン消息 2021

ロンドンで1年間暮らします

プリムローズ・ヒル

4月20日、火曜日。ますます春めいている。日中、気温は10度を超え、外を歩くのにダウンジャケットを着なくてもよい気候になった。散歩を兼ねて、プリムローズ・ヒルまで歩いてパンを買いに行こうと思い立つ。

 

プリムローズ・ヒルは、ロンドンの地下鉄ノーザンラインのカムデン・タウン駅を登って行き、運河を超えた小高い場所にある。カムデン・タウン駅の隣のチョーク・ファーム駅が最寄りの駅である。運河の水門のあるカムデン・タウン駅周辺はパンクロックとサブカルが熱い若者の街であり、水門の横にあるかつての馬の厩舎跡地がマーケットになって、テイクアウト専用の食べ物のスタンドや、パンクなT-シャツ、アクセサリー、バッジなどを売る屋台が並んで、いつでも賑わっている。歌手のエイミー・ワインハウスが住んでいたというのが納得の下町である。プリムローズ・ヒルは、カムデン・タウンの隣ではあるものの、全く雰囲気が異なる。運河を渡って小高い丘にあるため、こちらは山の手となる。見晴らしの良いプリムローズ・ヒル公園の先が、映画スターのジュート・ロウも住むという人気の住宅地になる。公園を抜けると、通りが商店街になっていて、小さな店舗が並んでいるのが見える。

 

立ち並ぶテラスドハウスを通って、地図にある「プリムローズ・ヒル ベーカリー」を訪ねた。てっきりパン屋さんだと思っていたら、全く予想外の店だった。パンではなく、デコレーションされた小さなパステルカラーのカップケーキがケースに並んでいる。ピンク色の店内はファンシーな趣味に満ちていて、シルバニアファミリーの世界につながる可愛らしさだった。あるいはサンリオかソフィア・コッポラの世界のようなガーリッシュさである。パンどころではなかった。このファンシー趣味もロンドンカルチャーなのだろうか。

 

パンが買えなかったので、商店が並んでいた通りの方に戻っていく。すると突然、ショーウィンドウのガラスに日本語がペイントされている店舗が目に入った。「プリヒル姉さんの句」という日本語がすらすらと読める。ショーウィンドウの上の方に、ヤマサ醤油の箱が積まれているのが見える。店の看板に「FISHMONGER」とあるが、日本食材の店だろうか。店の外にお客さんが並んでいた。人気店のようである。

 

プリムローズ・ヒルの商店街には、デリカテッセンやレストラン、ブティックなど、こぢんまりとしておしゃれな商店が並んでいた。チョーク・ファーム駅の方からプリムローズ・ヒルを振り返ると、テラスドハウスが淡いパステルカラーに塗り分けられているのに気付いた。このエリアには、そこはかとなくファンシー趣味が通底しているようである。

 

その後、調べてみたところ、「プリヒル姉さん」とは長らく魚屋さんで働いているロンドン在住の日本人の方だと分かった。「FISHMONGER」は鮮魚店であった。フランス人の店主さんのお店であるが、土曜日には「姉さん」の作ったお刺身盛り合わせも買えるらしい。

 

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プリムローズ・ヒルのテラスドハウス。ほんのりパルテルカラーに塗り分けられている。